続編・聞いてみたこと
結婚したのは人生で最大の間違いだった、と言っている母親に、聞いてみたことがある。
じゃあ、間違わずに結婚しなかったとして、その場合は私は生まれてなかったという事で、違う人と結婚したとしたら私は生まれてなかったという事だけど、それについてはどう思いますか、と。
もちろん、私は、自分という存在を認めてほしかったのだ。
「そうだね、じゃあやっぱり、その点では結婚したことは間違いでもなかったかな」と。
「結婚しなかったらあなたは生まれて来なかったのだから、あなたがあなたとして、生まれてくれたのはよかった。」と。
そして当然、その私の希望は打ち砕かれるわけだけども。
母親は、
「だとしても、それは自分の子どもだから。自分の子どもであることは変わらない。」
というような事を言った。
私はそれ以上聞けなかった。もうこれ以上聞いたら自分の心臓が破裂してしまうと思ったから。
自分が自分であること
母親にとって、私という個人が特別だ、という感覚はないということだろう。
どう考えても、父親と母親が結婚したから私が生まれたのであって、父親が違ったとしたら私という人間はこの世に存在していない。でも母親にとってはそれは関係ないのだろう。
自分から生まれた「自分の子ども」であれば、それがどのひとつだったとしても、自分の子どもである事に変わりはない、ということだ。
私が私という個人であることは、母親によって完全に否定された事になる。
母親にとって、嫌だろうが何だろうが、結婚して生まれたのは私でしかなくて、その様々な偶然が重なって私が生まれてきたということを、一ミリたりとも肯定する気はないという事だ。
とにかく、自分が生んだ子は自分の子どもであり、それが私でなくとも、それはその時のそれなわけで、この偶然の中私が生まれたことを受け入れて肯定するという気はないということだけは理解できた。
やっぱりどこまで行っても私が生まれてきたことを肯定し、私の心が救われるような返答は返ってくるはずもなかった。
自分が望んだ回答が返ってこなかった、というだけのことなのだけれど。